あれは、娘が2歳になったばかりの土曜日の夜のことです。
たわいもないことから、僕と妻は言い合いになりました。きっかけは「来月の予定をどっちが調整するか」というだけのこと。今思えば、お互いに疲れていただけだったんだと思います。
最初は普通の話し合いだったのが、だんだん声のトーンが上がっていって、気づいたら、リビングのソファで遊んでいた娘の前で、大人2人が顔を赤くして言い合っていました。
そのとき、娘がおもちゃを置いて、僕たちのところに歩いてきて、こう言ったんです。
「ママ、いやいや。パパ、いやいや」
そして、ぽろぽろと泣き出しました。
あの瞬間、僕も妻も、言葉を失いました。
娘の涙が教えてくれたこと
その夜、娘を寝かしつけたあと、僕と妻はリビングで長く話しました。
「子どもは、言葉の意味はわからなくても、空気は全部わかってるんだね」
妻がぽつりと言ったその言葉が、ずっと頭に残っています。
確かにそうでした。娘はまだ2歳。僕たちが何で言い争っていたのか、内容は理解できなかったはずです。でも、いつもと違う両親の表情、声の大きさ、ピリピリした空気——それは、2歳の娘にも痛いほど伝わっていた。
「夫婦喧嘩はダメ」じゃない、と僕たちは思いました。意見のぶつかり合いは、ある意味、家庭にとって必要なこともあります。でも、子どもの前で感情をぶつけ合うのは、絶対にやめよう。あの夜、僕と妻はそう約束しました。
そして、それから守り続けている3つのルールが、今日のお話です。
約束① 声が大きくなりそうになったら、リビングを出る
1つ目のルールはシンプルです。
言い合いになりそうな空気を感じたら、どちらかが「ちょっと、台所行こうか」と声をかける。それだけ。
大事なのは、怒りのピーク前に、物理的に場所を変えること。リビングのソファで言い合っていると、娘の視界に入ってしまう。だから、いったん台所か寝室に移動して、そこで話の続きをします。
最初は「えっ、ここで言いたいんだけど」と思ったこともありました。でも、不思議なもので、5メートル歩くだけで、声のトーンって自然に下がるんです。歩いている間に、ちょっと冷静になる。
このルールを始めて1年経ちましたが、今のところ、リビングで娘を泣かせる事態はゼロです。完璧に喧嘩がなくなったわけじゃない。でも、娘の前ではしないという約束は、ちゃんと守れています。
約束② 「あなたが」ではなく「私は」で話す
2つ目のルールは、話し合いの中身についてです。
場所を変えて話を再開するとき、僕たちは意識的に主語を「私」に変えるようにしています。
たとえば、こんな感じです。
- ❌「あなたがいつも予定を勝手に決めるからこうなる」
- ⭕「私は予定を一緒に決めたいと思ってる」
「あなたが」で始まる言葉は、相手を責める言葉になりやすい。「私は」で始まる言葉は、自分の気持ちを伝える言葉になります。
これ、知識としては知っていたんですが、実際にやってみると、ものすごく難しい。怒っているときって、つい「あなたが」って言いたくなるんですよね。
でも、妻と何度も練習しました。お互いに気づいたら「いま、あなたが、って言ったよ」と指摘しあう。最初はそれでイラッとすることもあったんですが、3ヶ月くらい続けたら、自然と「私は」で話せるようになりました。
不思議なことに、これだけで言い合いが減ります。責められると人は反撃したくなるけど、相手の気持ちを聞かされると、聞きたくなる。たぶんそういうことなんだと思います。
約束③ 仲直りの瞬間を、娘の前で見せる
3つ目のルールは、娘のためというより、娘に「夫婦の姿」を伝えるためのルールです。
話し合いが終わって、お互いの気持ちが落ち着いたら、必ず娘がいるリビングに戻って、「ごめんね」「うん、私もごめん」というやりとりを娘の前で交わすようにしています。
そして、軽くハグをする。これがセットです。
始めは、ちょっと恥ずかしかった。妻も僕も、人前でハグするタイプじゃないので。でも、これをやると、娘がすごくホッとした顔をするんです。「あ、パパとママ、仲良し」って表情に戻る。
あとで気づいたんですが、これって娘にとって、すごく大切な学びになっているんじゃないかと思います。
大人だって、意見が合わないことはある。怒ることもある。でも、ちゃんと話して、謝って、また仲良くなれる。娘がいつか、誰かと意見がぶつかったとき、「話せば仲直りできる」と知っていてほしい。そのお手本を、僕たちの背中で見せていけたらいい。妻と、そんな話をしています。
完璧じゃなくていい
正直に書くと、今もたまに失敗します。
場所を変えるのが間に合わなくて、リビングで声が大きくなってしまったこと。「あなたが」って言ってしまった日。仲直りのハグを忘れて、そのまま夜になってしまったこと。
そのたびに、妻と「ごめん、また失敗した」と笑い合います。
夫婦の関係って、たぶん、完璧を目指すものじゃないんだと思います。失敗しても、また約束を守ろうとする。その繰り返し。
娘があの夜、泣きながら「ママ、いやいや。パパ、いやいや」と言ってくれたから、僕たちはこの3つの約束に気づけました。たぶん、あれがなかったら、僕は今もリビングで妻と言い争っていたかもしれません。
2歳の娘に、教えられた夜でした。
同じように、子どもの前でやってしまった、と後悔しているパパがいたら。大丈夫です。気づいたその日から、約束は始められます。完璧じゃなくていい。失敗してもいい。「子どもの前ではしない」と決めた、その意志のほうがずっと大事だと、僕は思います。
今夜も、家族3人で笑って眠れる夜にしたい。それだけが、僕の願いです。

コメント